エマ | 現役引退した元セミプロスロッターの独り言

エマ

 










 作者 森薫 1~4巻 以下続巻

 長文注意!

 エマと聞いて、天馬やノクターンを連想した人には申し訳ありませんが、全く関係がありません。

 漫画に興味のない人は読まないことをお勧めします(笑)。

 さて、 一部、熱狂的ファンがいるらしいですが、出版社がマイナーなので、知らない人は全然知らないであろう漫画です。

 時は19世紀のヴィクトリア王朝時代のイギリスはロンドン。

 産業革命により、貴族に代わり商人達が台頭し始めていた頃の話。

 富豪の跡取息子のウィリアムは、彼の元家庭教師の老婦人ケリー・ストウナー宅を訪ねた際に、そこに勤めるメイドのエマに一目惚れする。

 色々あって、共に相思相愛となる2人だが、上流階級と労働者階級という厳格な階級差があったこの時代、2人の交際を認めるようにウィリアムは父親に求めるが、彼の父はその願いを受け入れなかった。

 やっぱり、住んでる世界が全然違います。と潔く身を引くエマ。

 時を同じくして、雇い主のケリーが亡くなったため、今後の身の振り方を考えなければならなかったエマは、ロンドンを離れ、故郷のヨーク州に帰ることを決める。

 自暴自棄になり、仕事に打ち込むようになるウィリアムと、故郷に帰る途中、偶然知り合った、ドイツ人商人の屋敷で働くことになったエマ。

 しかし、運命の歯車は、両者を再会させることと相成る。


 とまぁ、今までに使い古されたような典型的な純愛物語のプロット。身分違いの恋って奴ですが、この漫画はめっちゃハマります。(というか私はハマりました)

 まず、この漫画の良い所。

 その1

 情景描写、時代背景、設定がめっちゃ緻密。

 そこいらに転がっているようなメイドが出てくるだけの漫画とは情報量のケタが違う。

 例えば、メイドというものは、エマのように中流階級に仕えるメイドはオールワークス(雑役女中)と呼ばれ、一人で、掃除から洗濯、料理まで全てこなさなければならないが、大きな屋敷で働くメイドは、キッチンメイド、ランドリーメイド、子守り、侍女等、役割分担が細分化され、一般にメイドと呼ばれているのはホームメイドのことを指す。
 尚、私達がメイドといって思い浮かべる、ヒラヒラのついたエプロンを付けたメイドは、客間女中と呼ばれる、接客を専門とするメイドのことである。
 そして、一般にメイドとは日本語では家政婦と訳されるが、本当の意味の家政婦とはホームキーパーを意味し、使用人全体を統括する立場にある人のことである。私達に一番馴染みがあるのは、アルプスの少女ハイジに出てくる、ロッテンマイヤーさん。みたいな人のことである。

 というようなことがきっちりと描かれている。ある意味、とても勉強になります。

 その2

 スポ根漫画のようなカタルシスがある。

 前回紹介した「風の大地」風にいうと、

 「ば、ばかな、このアゲインストの中、ティショットであのハザードを越えられる奴がいるというのか!」

 とか、

 「このホールでグリーン奥にカップが切られたとき、ピンをデッドに狙って成功させた者は過去に二人しかいない。79年のJ・ニクラウスと昨年のT・ウッズだけだ。この青年はそれを知っていて、グリーン中央でなく、あえてデッドを狙うというのか」

 みたいな。

 え?わからん?

 つまりですね。途方もない実力を持った者が、その真価を発揮したとき、周りのものが驚嘆するというやつですよ。

 一体、メイドが出てくる漫画でどうやったらそんなことが起こるんだよって?

 これは、説明すると、とても長くなります。

 まず、エマの生い立ちですが、かなり悲惨です。

 下層階級出身(故にエマには苗字がない?)のうえ、私生児で幼くして母親を無くし、親戚に引き取られますが、かなり辛辣な仕打ちを受けます。

 そうこうするうち、親戚が漁師だったので、その獲物の貝を売り歩いている途中で、人買いにさらわれます(器量が良かったため)。が、隙を見て逃げ出します。

 しかし、そこはヨークから200キロ以上離れたロンドン。帰る術がないエマはロンドンで浮浪児となり、花売りをしたり、大きなお屋敷の雑役をさせてもらったりして、日々の糧を得ます。

 そんなことをして、おそらく数年が過ぎた頃、とある屋敷で雑役をしていたエマが、その屋敷を訪れていた引退しようとしている家庭教師の老婦人の目に止まります。

 そんな娘を引き取ってどうするのよ。と尋ねる屋敷の者に老婦人は答えます。

 「私は前から思っていたのよ。教育っていうものがどれほどのものなのか」

 かくして、老婦人による、スーパー使用人育成教育がはじまります(笑)。

 そうして、下層階級にしては、分不相応な教養を身につけたメイドが誕生します。

 彼女が下層階級にしては珍しく眼鏡を掛けているのは、おそらく夜、ランプの明かりで勉強したために近眼になったからで、それを見て、老婦人が眼鏡を買い与えたのです。

 ところがです。ウィリアムはエマのこういった一面を知りません。

 それで、エマとの交際を父親に求めた際に、場にふさわしい会話ができなかったり、教養がなければ駄目だ。という条件に反論できずに引き下がります。

 それを読んでいた読者はかなり苛ついたはずです(笑)。

 エマはかなり高い次元で、それらをクリアできる実力があったかもしれないからです。

 このあたりの話の展開がこの作者は上手いと思います。

 彼女のそういった面は、ドイツ商人の屋敷で働くようになってからも発揮され、フランス語を理解できることで、メイド長とハウスキーパーを驚かせ。(当時のイギリスはまだ文盲率が高く、メイドは読み書きができなくても当たり前)この屋敷の夫人が、とある詩の一節を口にし、「これはなんの詩だったかしら?」と呟いたのに対し、「真夏の世の夢」と答えたエマに、「あなたは本当にメイドなのかしらね」という言葉を投げかける。

 そんな点が見込まれてか、夫人の侍女的な役目を与えられ、夫人がロンドンに所用で出向く際、同行することになったエマは、ロンドンでウィリアムと再会するというところで4巻は終ります。

 5巻は3月31日発売です。

 で、この漫画の面白い点はまだありまして、エマのライバル的存在のエレノアという女性がいます。エマと彼女は、お互いの存在を全く知らないわけなんですけれど。

 彼女は有力貴族の三女で、社交界にデビューしたばかりの世間知らずの箱入り娘なんですが、そのデビューしたときに最初に踊ったウィリアムに惹かれるわけです。

 普通、ヒロインのライバルは、多少悪意をもって描かれているものですが、このエレノアという女性は、非常に好意的に描かれています。

 自分に振り向いてくれないウィリアムに対して、何度もアプローチを掛けるわけですが、駆け引きとか策略めいたものでなく正面からあたってくだけている(ウィリアムが鈍感な為)ので、その様は微笑ましく感じられます。

 その遅々として進まない展開は、彼女を溺愛する彼女の姉が、私の妹がここまでしてるのに、その反応はどういうことやねん。とウィリアムに直談判しに行ったことで急展開し、自暴自棄になっていたウィリアムはエレノアに求婚します。

 で、エマとウィリアムが再会するのは、その婚約披露パーティーなんですけどね。

 ここで、ウィリアムがエマをとったら、エレノアは自殺するか出家すると思うんですけど、一体作者はどうするつもりだ(笑)。
 
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